■ 読書感想93 有元伸也「TIBET」
次元の高い動物が出会うとても自然な世界。
大事なものだけで構成されている被写体の組成。
白光した雪の中で佇む明瞭な輪郭。
しんと静まり返った部屋に二人きり、対峙するピュアネス。
生き物としての純度が高いから、自然と丸みを帯びる存在。
すべての被写体が質量を伴った存在として写真に封じ込められ、全ての被写体から生温かい呼吸の匂いがする。
それは愛しい存在と触れ合う懐かしい匂い。
その匂いに触れると、記憶にこびりつく愛しい存在の痕跡が疼く。
その痕跡はもう記憶の中にしかないもの。
でもその記憶は質量と実感を伴い今でも艶かしく残るもの。
どんなに叫んでも戻らないことへの哀しさと愛しさ。
有元さんはピュアネスを持っていた。
人間には本質があり、欲望がある。
本質とは魂のこと。
魂のはたらきを時に妨げるのが欲望で、でも欲望があるから営みがあり、営みがあるから魂の発露の場所があるのだ。
シンプルに言うと、欲望も魂だ。
ピュアネスとはその魂の純粋のことだ。
有元さんはこの頃その純粋を持っていた。
チベットの人たちのピュアネスと有元さんのピュアネスが交錯し、写真が生まれる。
ピュアネスは磨かれる。
夢中で旅をし、チベットの大気と風土が体の中に宿る頃、ピュアネスは純度を高める。
かくして徳の高い動物はチベットの世界に順応し、動物の自然はチベットの世界と一致した。
有元さんはチベットと一つになったのだ。
有元伸也「TIBET」 / 2019年4月5日発行/ 禅フォトギャラリー


