■ 読書感想94  須藤明子「七雪」

無重力な空と深々と降る雪の静けさ。
精神と時の拡がりに、雪と空の色の分だけ抑揚が生まれた童話の中の実話。
真空の大気の中で音が雪に吸い込まれ、その上にまた雪が重なり、営みは存在感を持ちながら雪に覆われていく。

須藤さんは昏いのに明るい。
そしてその明るさは自分の思惑や恣意などを超えて、自分で自分を燃やす太陽のように、抗うことの出来ない疼きのような明るさだ。
その自らの明るさに促されるように須藤さんは雪を歩く。
風に吹かれ、手が悴み、その重い寒さの中で飽くことなく降りつづける雪を見ていた。
雪が心と体を洗い、煩悩が浄化していくように呼吸から乱れを吐き出し、須藤さんの息は清らかさを纏う。

明るさの分だけ歩かねばならなかった。
須藤さんの煩悩は光を求める心のはたらきにあった。
明るいのに明るさを求めるジレンマの中に須藤さんの歩みがあった。
固まりを解くには自ら光りながら辺りを照らし、写真を撮る必要があった。
それはそうせざるを得ない宇宙的な疼きだった。
あるのに足りなかった。
だから歩いた。

須藤さんはきっと疼きを終えた。
静かだった。
降り積もる雪を静かに見ていた。
須藤さんは清らかだった。

 

須藤明子「七雪」 /  2025年9月1日発行/  蒼穹舎