■ 読書感想01  山内道雄「人へ」

この時の山内さんはきっと生きることが生(なま)だったのだと思います。
言い方を変えれば生(せい)から死を見ていた時代なのかもしれません。
生(せい)から死を見た場合、死は得体の知れない対象です。
得体が知れないから、生きていく過程で苦悩や惑いが自分を襲います。
つまり生きることが生(なま)なのです。
だから、写真から むわっ と噎せ返るような生臭い人間の匂いがします。
そして苛烈な日差しと、荒い粒子に、僕の細胞はざわざわと泡立つのです。

人がまだ生臭かった時代の匂いを孕み、群像は鈍器のように重たい存在を放ち、2005年の僕を直撃しました。
本当に自堕落な20代を過ごした僕の、その20代の終わりの僕に、
山内道雄は 生きろ と言ったのです。

 

山内道雄「人へ」  /  1992年10月10日発行  /  プレイスM