■ 読書感想08  綿谷修「昼顔」

暖かい。
熟れて少し腐っている。
シャワーのように繊細なエネルギーでありながら、
お腹の芯から出る強い生(なま)な呼吸。
陽射しが尊くて、空気が絹の様に柔らかい。
そして何より自然な世界。

強度ばかり追ってきた僕には、最初昼顔は難しかった。
作ろうとばかりしてきた僕には、生かそうとする極意は遠かった。
自然であることは不自然に感じられ、でもそのことが悔しくて僕は「虻0」を作った。

寄れない写真家になりたくなかった。
でもそう思うあまり、引けない写真家になった。
そして距離に執着するあまり、解(ほど)く柔らかさとは無縁に成長した。

大田さんの言葉を反芻している。

「自然すぎて、そこにカメラがあることが不自然な写真、それが極意じゃないかな。」

走っても走っても見えない達人の輪郭を、僕は追いかけている。

 

綿谷修「昼顔」  /  2004年8月6日発行  /  蒼穹舎