■ 読書感想10  淵上裕太「路上 Ⅰ」

淵上裕太特有の倒錯と野心はこの頃は未だ心の奥の方に沈んでいる。
そしてその心の奥に沈んでいる倒錯の目で、被写体をじっと見ながら喜びに近い明るい共感を持っている。
が、彼は冷静だ。
個性や特徴は誰にでもある。
だから、個性や特徴は取り立てて特別なものでもない。
「個性は特別ではない」という無私の感覚を獲得するその全過程が作家人生だとしたら、そうである為に、自我の強力なモンスターの自分を俎上に載せて、静かな自分と格闘させることも作家人生なのだと思う。

淵上裕太はモンスターと格闘するのではなく、静かな彼はモンスターを肯定する。

僕が彼を冷静な倒錯者だという理由はそこにある。

 

淵上裕太「路上 Ⅰ」  /  2017年10月1日発行  /  淵上裕太(私家版)