■ 読書感想39  牛垣嶺「家の風」

僕は虫をわからない。
虫が生きている世界と僕が生きている世界は違う。

昔、部屋の隅にいる蜘蛛と目が合った。
ふっ と部屋の隅に目をやると大きな蜘蛛がいて、僕と蜘蛛は同時にお互いに気付いた、気がした。
蜘蛛は僕を警戒しているようだった。
そして、僕のわからない蜘蛛の異様な異物感。
蜘蛛は強烈な存在を発していた。

淡く繊細で、軽い昏さ。
そこに静謐を重ねながら、生な存在を放つ 生きているもの、死んでいるもの。

11年の歳月は淡々と繰返され、営みは巡る。
土地は呼吸し、水は流れ、産声は上がる。

世界の違う生き物が同じ世界に生きていて、この世界にあるあの世とこの世。

重なる不思議が、静かに、軽石が削れるように風化し、大気に逃げた。

牛垣さんの大きな歳月の、土地と風の記録。

 

牛垣嶺「家の風」  /  2021年11月12日発行  /  蒼穹舎