■ 読書感想41  山内道雄「東京 2005-2007」

硬質で深い呼吸は生温かい。
パーソナルスペースを侵したその中には
柔らかな顔が剥き出しで、
束の間通り過ぎる人の呼吸の匂いを嗅いでしまったような、
少し不快で、でもその人の秘密に触った不思議な安堵がある。

獣性と理性が入り混じる粗い粒子に山内道雄の一瞬鋭い眼光を感じ取り、
最早動物と何ら変わらない身のこなしに、
戦慄する。

体液が揮発して、幾分ミイラ化した生な被写体は皆、山内の空間に閉ざされ、山内の目によって整えられた、山内の標本だ。

ヒューマニズムから遠く、
それでも人間の本質から近いこの凶行は、
どこまでも人間の仕業であり、
写り込んだミイラたちもまた人間の姿なのだと、息を呑む。

山内道雄は親和を否定する。

 

山内道雄「東京 2005-2007」  /  2008年9月24日発行  /  蒼穹舎