■ 読書感想50  小栗昌子「トオヌップ」

客観的に見ると、人は生まれては滅び、ただそれを繰り返しているだけのように見える。
でも、主観に重きを置くと、人の一生はめくるめく出来事の坩堝で、苦しみや喜びに溢れている。

血を絶やさぬように、と言う人がいる。
だからとも言わないけれど、
僕たち人類は絶えることなく、続いてきた。

魂は滅びない、という仮説を耳にした。
定かではないけれど、肉体がなくなっても魂は死なないらしい。

人の命とは あるようでなく ないようである。

日本各地にある集落も、勿論遠野郷も、
幾多の命が明滅し、脈々と続いてきた。

そこには神話的な光が注ぎ、
そこにしかない風が吹き、
土地と支え合う生活がある。
幾つもの要素が幾重にも層をなし、
複雑に絡み合い、
笑い、苦しみ、
茅葺きの屋根に花が咲くのだ。

生きている者、死んでいる者、
生々しい化石は風化し、砂に還る。

僕たちはあるようでなく、ないようである。
自分を確認出来ない寂しさの中で、
せめて今吹く風のように、
あった瞬間もうないように、
潔い命を生きたいと思うのだ。

 

小栗昌子「トオヌップ」  /  2009年3月25日発行  /  冬青社