■ 読書感想51 北井一夫「三里塚」
雨上がりに晴れ間が出るような、優しい寂しさの明るさ。
隔たりのない過去の静けさ。
新しい過去の明るさ。
日差しを受けた記憶の中の砂。
温かな体感はない。
でも温かさを覚えている。
きらきら光る陽光をありありと瞼に描きながら、ちょうど明るさの分だけ重さがない。
記憶だけあって、記憶を遡ると本当にあったのだと思う。
でも本当にあったか、最早立証出来ない。
あったことがあったのだ。
「三里塚」はそんな本だ。
北井一夫「三里塚」 / 2000年8月30日発行 / ワイズ出版