■ 読書感想52 コウノジュンイチ「ある日」
淡い優しさ。
優しい光。
淡さの中の生臭さ。
その中の譲らない固さ。
切り取る世界には水があり、
それは憂いと優しさの根拠で、
コウノさんの生きようとする息遣いと重なる。
桃源郷のような優しい光も
優しい花の佇まいも
優しい草木のエーテルも
背中を見送る優しい視線も
夕刻の優しい時間も
全て優しいのはきっとコウノさんが優しいから。
自分の中の深い井戸から空を見つめ、
そこから出ようともがいた人だけに備わる、不思議な優しさ。
自分を満たすより世界の囁きに耳をそば立てる。
息を詰めて、そっと寄り添い、
そうすることで解放されるコウノさんの
人肌温度の優しい魂。
生きている。
コウノジュンイチ「ある日」 / 2015年12月31日発行 / 蒼穹舎