■ 読書感想53  原美樹子「hysteric Thirteen」

落とし穴に落ちるように、一瞬で世界の深淵に落ちる。
目のピントが合うと同時に、腑に落ちている。
そしてピントは目に見えるものに合うようで、原さんが感じた何かに合っていることも同時に悟る。

被写体への敬意というより、現象への端正な敬意。
僕の目は、情報が通過し収まるものが収まるところに収まった余韻が振動する。

連続している時空の一瞬の歪み、ねじれ、それを明確に淡く、写し取る。
時空の歪みは僕の中にもあって、
原さんの感じた歪みと呼応する。

目に見えている属性の世界に走った亀裂の向こうには、瑞々しくもワクワクする世界が躍動し、僕の腑が震えるのだ。

例えば、飼っている犬が死んで、新しい犬に出会うまでのエアポケットで、
僕は虫ばかり撮っていた。
虫は死に近くて、僕は死から生を見始めた。
死は得体の知れないものではなく、単に肉体の終わりだった。
虫たちは死を受け入れていて、そこから呼吸していた。

ある晩、死んだ犬が僕の眼前に飛び出し、
ワン と吠えた。
さよなら と言われた気がした。
そして、僕たちはまたどこかで会う気がした。
僕にとって死とはそういうものとして刻印された。

原さんの写真は僕をそんなエアポケットに連れて行く。

連続性の綻びは、傷を中和する。

 

原美樹子「hysteric Thirteen」  /  2005年7月7日発行  /  ヒステリックグラマー