■ 読書感想58 森山大道「MORIYAMA Daido 1970-1979」
魔界。
時代という意味での、位相という意味での、異界。
土地と時代の空気を孕みながら、その中で森山さんがたった一人いる位相の風景。
生臭い呼吸と、二つの極みが離散して作り上げられた粗い密度。
つまり、振幅を拡げた森山さんのエネルギー。
知っているけど言わない、でも知らない 黒く軽快な気の狂れた熱量。
業の重たさを一身に背負い、でも光しか見えない森山さんはシリアスから遠い。
そして、躰の中の水が渇き、石化する事で写真は写真になる事を許される。
石の中に封じ込められた呼吸は石から綻びて、生温かさが浸潤する。
だから写真だと思う。
苦しみ抜いて、揉み上げられた吐く息は、やがて魂に昇るだろう。
森山大道「MORIYAMA Daido 1970-1979」 / 1989年6月30日発行 / 蒼穹舎