■ 読書感想61  関田晋也「反響 3」

あまりに自然に昏い。
そして遠くの方に光が見える。
闇は傷跡のように明白にあり、それが風に吹かれ輪郭が淡い。

意識の遠くで世界を見詰め、焦点は中空に浮かぶ。
そうして関田さんの呼吸は、気配に変わる。

僕は23歳の終わり頃から少しの間、精神病院の閉鎖病棟にいた。

夜中の3時に誰もいない町内を徘徊し、公園の草むらに隠れる。
隠れている時、目の前にある小石を拾い、これで安心だ、と息を潜める。
僕が息を潜めじっと横たわる草むらを誰かが通り、僕の存在に気づく。
気づいた人は「ひぃっ!」と声を上げる。
僕は、小石を持っているから安全な筈なのにおかしいな・・・、と独り言を言いながらその場から逃げ出す。

こんな奇行を繰り返していたら、気づいたら僕は閉鎖病棟で寝ていた。

ある時、無力感に苛まれ、「明日死のう」と思って寝た。
次の日、目を覚まして雨戸の締め切った暗い部屋で、どうやって死のう、と考えていた。
その日どう過ごしたかは覚えていない。
夜が来て死ねない自分に気づいた。
死ねない、と思ったら目の前が真っ暗になった。
部屋は明るかった。
でも目の前が本当に真っ暗になった。

絶望。

無力だから死のうと思った。
でもその無力のまま生きなくてはいけない絶望。

僕はあの暗闇から始めた。

暗闇の数年後、僕はカメラを握っていた。
山内道雄に憧れて、尾仲浩二に惹かれた。
生きていくために必要だった。
生きていくために写真が必要だった。

どうして自分のことなんか話そうと思ったのだろう?
多分僕は伝えたかった。
関田さんに伝えたかった。
絶望を突破する人もいれば、突破しない人もいる。
それぞれの人がそれぞれの選択をして、生きてたり死んでいたりする。
でも全ての人に、その人がそうある そうする権利があり、僕たちが出来るのは
ただ、全ての人が持つその権利を尊び、愛してあげることだけだ。
物事に善悪なんてないし、正誤もない。
あるのは他者のそうある権利を愛することで自分を愛することだけなのだ。
愛、それだけなのだ。

僕は写真を撮る。そうすることが必要だから。
そして時々何かが分かり、また分からなくなる。
だから、分かったことを誰かに聞いてほしい、伝えたい、話したい。
それが写真なのかもしれない。

「僕の話を聞いてくれないか?」
愛しい人に僕はそう言い続けてきた。
なぜならそこには 愛 しかないからだ。

 

関田晋也「反響 3」  /  2020年7月7日発行  /  GRAF Publishers