■ 読書感想62  伊藤昭一「迷鳥」

眠たくてコアな土地の記憶。山陰の重たい空と神々の集まる空気は、所狭しと画面の密度を埋める。空気の重量はきっと酸素の所為だ。酸素は神々を呼び、神々は酸素を作る。どちらが先ともなく、既にそこにあるように、神々はきっとここにいる。兵庫・岡山を抜けて鳥取に入る時、雨に降られた。入った直後、雨は止んだ。洗礼を受けて踏んだ土地は、色彩に重さがあった。色は世界に出会った喜びだ。だから喜びに重さがあった。色彩と喜びの質量が、どこまでも広い山陰の海と空に重なった。地平線は遠かった。僕は神々に挨拶をした。すると神々は僕に色彩の濃度をプレゼントしてくれた。色彩に酸素を混ぜて、僕の色が出来上がった。山陰は基準だ。どんなに当たり前の風景にも、そこに世界と出会う喜びがあるなら、色には神々の息吹が宿る。喜びはいつもあたたかい。あたたかさは神々の体温だと思う。

 

伊藤昭一「迷鳥」  /  2022年3月21日発行  /  蒼穹舎