■ 読書感想72 溝口良夫「くるおしい都」
黒いのに薄い。
薄さは溝口さんのsexualな部分だと思う。
黒さは業だ。
溝口さんは自分を性で燃やしている。
でも何かが焼け残り、黒く焦げる。
その黒さが溝口さんが抱えている業なんだと思う。
燃えている姿には妖気が宿り、
僕には懐かしい。
僕は幼い頃から暴力が怖かった。
シンプルに言うと死が怖かったのだと思う。
怖いまま生きていけなくて、僕はスナップに傾倒した。
今だから言えるけど、
暴力に怯える自分は絶望的に弱い人間だと思い込んでいて、それを払拭する為にスナップがあった。
dyuf!という作品を作っていて、
ある時とても繊細でか弱い女性を撮ろうと踏み込んだ。
すると女性はキャッと逃げて、
カメラを払い除けようとする手が僕の額に当たった。
手を当ててしまった女性は僕に
ごめんなさい
と言った。
僕のやっている行為は強さではないとこの時はっきりと自覚した。
手が額に当たった瞬間、僕はdyuf!をやめた。
僕はスナップで自分を燃やし、
大部分が焼け残った。
僕の姿勢は他者から悲しく映っていただろう。
溝口さんもまた沢山焼け残っている。
溝口さんの業は消化し切れていない。
燃える溝口さんは妖気を纏い、
作品から聞こえてくる呼吸は生々しい。
溝口さんはまだまだ燃えている最中だ。
僕は最近、死ぬことがそれほど怖くなくなった。
誰かの暴力が僕に向かい、
結果僕が死ぬことになっても僕はこう思う。
大したことじゃない、ただ死ぬだけだ。
溝口さんに今度こう聞いてみよう。
死ぬのは怖いですか?
溝口良夫「くるおしい都」 / 2022年1月25日発行 / 蒼穹舎