■ 読書感想77  山崎弘義「路上の匂い」

重たい鋭さが軽快で明るい。
この頃の山崎さんは位の高い動物なのだと思う。
眼光は鋭い。
自分の魂を信じているから存在が重く、
何よりシャッターを切る時、焚かれたストロボと同じようにエネルギーを解放している。
でも僅かに黒い。
この黒さは自我。
夢中の中に抑制がある。
多分山崎さんは自分の中にある憂鬱を自覚している。

動物と人間を隔てるのは憂鬱を突破する意志の有無だとしたらどうだろう?
山崎さんは毎回毎回、シャッターを切る瞬間に憂鬱を越えようと戦っている。
負ける時もある。
でもいつも挑んでいる。
それをシリアスにならずに山崎さんの普通でこなしている。
だから写真が軽快なのだ。

この写真集にはこの時代の普通が写っている。
殊更興奮したり、痺れたりしない。
でもだからドキドキする。
何故ならこれは本当のことだから。
本当のことはディープな様相を呈すわけではなく、また手応えの薄いものでもない。
ただただ 自然 なことなのだと思う。

一つの時代の東京という場所。
時間と空間が交錯するある一点が 純粋 で埋め尽くされる恍惚。

人間と動物を往来し、その都度人間から出発する山崎さんの切実で軽快な憂鬱が、
またそれを突破する明るい意志が、
さも当たり前のように展開されていく普通の光景が、写真の精度を上げていくばかりか、山崎さんの類い稀な力業を提示している。

僕をドキドキさせる 純粋 とは何だろうか?
きっと僕はさっきからずっと、山崎さんの優しく素朴な魂を見ているのだろう。

 

山崎弘義「路上の匂い」  /  2022年12月10日発行  /  蒼穹舎