■ 読書感想81  柳沢信「Untitled」

匂う。
磯の匂い、潮の匂い、海の轟く匂い、時代の燃えカスの匂い。

人々がニュートラルにその土地と時代を歩く。
主張しない、皆一様に自分に与えられた生を淡々と歩く。

燻っている。
土地や時代が燃え、その燃えカス、煤が空気にこびりつく。
柳沢さんは灰になるまでは自分を燃やしていない。
いつも何かが生で、いつも燃えている途中だ。
燃え尽きない、燃え残る。
その燃え残りが柳沢さん自身の姿なのだ。
柳沢さんは生臭い。

あざとさはまるでない、でもシンプルな記録性を軽々と超えた柳沢さんのカメラワークは、世界の轟きを捉えた 律動 の記録なのだ。

 

柳沢信「Untitled」  /  2017年3月15日発行  /  roshin books