■ 読書感想82 伊ヶ崎忍「INAYA TOL」
血の肉の中で血の気がライトであり、
修羅場の中で状況を完全に受け入れ、シリアスを手放して飄々と写真を撮る。
摂理は摂理で、抗っても仕方がない、と屠殺にもどこ吹く風だ。
そしてそれらは全て無意識下で起こり、摂理に抵抗しない生理は、軽やかな眼差しの中に溢れている。
僕たちは日々命を頂いている。
命とは僕たちを生きることへと突き動かすはたらきのことだ。
弱肉強食は生態系の掟かもしれない。
強い者も食べないと死んでしまうし、弱い者ももっと弱い者を食べている。
何かを食べるということは、はたらきを持った命を頂くということだし、
そして何より食べるということは生き物には大きな喜びなのだ。
命の循環は悪くないのだ。
残酷で凶々しく悲しいけれど、受け入れるしかない。
受け入れたら最期、僕たちは自由なのだ。
この地球上の全ての光景はこの循環のどこかの一局面だ。
目に見える光景の背後には無数の光景の兆しが眠り、時の経過を待っている。
そして、無数のはたらきが和となり、命が轟々と高鳴る。
それが命で、僕たちは日々その命を頂いている。
伊ヶ崎忍「INAYA TOL」 / 2012年4月1日発行 / 蒼穹舎