■ 読書感想87 多々良栄里「アンヌ・アアルトを探して」
一段上の世界、一段上の光。
高い呼吸が聞こえてくる。
瞳孔が飽和する光の質量、ハイキーな空気の調べ。
息急き切って、僕では届かない世界を縦横無尽に駆け巡る。
スピリットと写真の力が融合し、我々の住むこの世界とは決して交わらないパラレルワールドを多々良さんは静かに疾走する。
結局この写真集は僕には啓示だ。
この僕達が住む世界とは異なる世界が明らかに存在することの啓示だ。
そして僕達がやがてたどり着く世界はこんなにも光に溢れていることの啓示だ。
光は残酷なほど辺りを赤裸々に照らし、全ては白日の元に引き摺り出される。
悍ましいほどの醜さも剥き出しに明るみに出る。
光とはそういうものだ。
でもアンヌちゃんと多々良さんの光は違う。
あっけらかんと全てを照らすのではない。
照らす光ではなく、そこに降り注ぐ光なのだ。
光が当たり、背後の意味など消えて、目の前に展開される世界の純度を上げる。
そう、アンヌちゃんと多々良さんの光はピュアネスを提示するのだ。
世界の原質はピュアネスだと思う。
涯のない純度と何も混ざらない清らかな透明。
矛盾や逆説のない100%の元気。
どうやったら届くだろう?
どうやったら見えるだろう?
僕は僕の中にある哀しさにそっと触れてみた。
多々良栄里「アンヌ・アアルトを探して」 / 2024年10月27日発行 / 蒼穹舎