■ 読書感想88  小林洋美「静かな光」

静謐の中の呼吸、静謐の中の色彩。
静けさの中で存在の声が凛と聞こえる。

静けさの中で花が咲き、屹立する声が わっ と聞こえる。
小林さんの心の中の静寂が、花や蕾や葉の踊るような存在独自の声を引き立て、
はたらきを与え、存在が高らかに唄う姿を、息を潜め活写する。

花はわなないている。
伴奏が止み、全ての呼吸が止まり、花の独唱が始まる。
花が伸びやかに唄うとき、その波長に小林さんも自身を重ねる。

その中で光が訪れる。
花の唄を祝福するように、そして一緒に唄うように、一輪一輪の花に輪郭を与える。
光は天の声なのだ。

光がピンと張り詰めた空気の中にある。
光は寒さの中で生きる。
光は空気に溶けて、大気は豊かさを得る。
光が溶けた芳醇な空気の中で、小林さんは鳥を見ていた。
鳥の輪郭は明瞭だった。
幻想の中で現実を見ていた。
幻と現実のあわいで去っていく鳥をじっと見ていた。

 

小林洋美「静かな光」  /  2025年3月20日発行/  蒼穹舎