■ 読書感想90  村上仁一「Subway Diary」

接続は不安定だ。
村上さんの受信した映像は村上さんの精神で像を結ぶ時、陰鬱で渇き、昏さを持ちながら不思議と軽い。つまり、憂鬱と憎しみ、落ち込んだ暗さと元来の明晰が同じ層に重なり、こびりついた陰が苛烈な印象を与えるのだ。

取り留めのないもの、なんでもないいつもの風景はそれを意識の俎上に乗せると、いつしかかけがえのない、代替不可能な事物そのものとして屹立する。また写真を撮ることで、出来る限り自然な、最大限日常的なシーンが村上さんの日々そのものとして化石化するのだと思う。

村上さんは生きようとしていた。
自分にこびりついた陰をそうとは知らずに浄化しようとしていたのではないか?
取り留めのないシーンを化石化することで、自分に舞い込む日常そのものを自分の血肉にするように、地下鉄の日々をその空気と同じ呼吸を吐くことで、自分の精神の負の昇華として発展させようとしていたのではないだろうか?
その呼吸はいつしか自分への憎しみを孕み、僕に苛烈さとして届いたのかもしれない。

事物はより自然なものが、より事物そのものへと変貌を遂げ、濃密に世界を生きた証となる。

村上さんの精神の負の昇華は、この頃このように遂げられていた。

 

村上仁一「Subway Diary」  /  2020年発行/  roshin books