■ 読書感想19  原芳市「常世の虫」

濃密で誠実な死臭。

去年僕の家の犬が死にました。
車に轢き逃げされ、即死でした。

僕は犬が死んだ時昆虫ばかり撮っていました。
虫は死に近いとその時知りました。

ある時、大きな蜘蛛の巣がありました。
大きな蜘蛛がいて、巣に引っかかった虫を食べていました。
その虫を食べる大きな蜘蛛の横でカナブンが矢張り巣に引っかかり、逃げようともがき逃げられないでいました。

大きな蜘蛛の巣に、引っかかった虫を食べる大きな蜘蛛と、その横で次に食べられるであろう、もがくカナブン。

僕はその残酷な光景を眺めていて、
無性にカナブンを助けたくなり、長いホウキで蜘蛛の巣を壊しました。
そしてカナブンをホウキに乗せました。
蜘蛛は残った糸にしがみつき、
その時食べられていた虫は糸にプランプランプランとぶら下がって揺れていました。

僕はぶら下がる死骸を見て、理解したように思います。

死んでしまった生き物は死の中にいない、ということを。
つまり、死んでしまった生き物の体は「死」ではなく「終わり」でした。
もう終わってしまって死ですらない、
だから逆に言えば、死とは生の一部だ、
とぶら下がる虫の死骸を見て、僕は思ったのです。

「死は生の一部で、生は死の一部だ」

原さんは誠実に死を知っていたのかもしれない、と思います。

 

原芳市「常世の虫」  /  2013年3月25日発行  /  蒼穹舎