■ 読書感想40  成合明彦「遥かなる河」

饐えた内臓に雪が降る。
生臭さが雪に中和され、腐食は止まる。

雪は大気に昇り、内臓に浸された水分は霧となる。
霧は晴れて、辺りに内臓はこびりつく。

陽が輝き湿度は気化し、新しい内臓が息を吹き返す。

昔の警備の現場で、
6Lのズボンを履く隊長がいた。
体重は130kgを超えて、
体は風船みたいにぱんぱんだった。
酒が好きで、非番には浴びる程飲み、現場でよく鼻血を出していた。
ある時休憩から上がり警備室に行くと、
隊長の息から内臓の匂いがした。
匂いは部屋中に充満し、吐き気がした。
程なく隊長は体を壊し入院して、
風船だった体はみるみる萎み、
そのまま死んだ。

成合さんの内臓は生きている。
饐えながら生きて、真っ最中だ。
季節には季節の内臓の匂いがして、
夏にはカラッと湿気を飛ばす。
生(なま)な生(せい)は光を浴びて、
尊い陽の匂いを得る。
眩い発光は生な生を神話へと押し上げる。

人はそれほど遠くへは行けないし、
それほど高くも行けない。
その自覚が生きる力と結び付き、
魂はやがて、光るだろう。

 

成合明彦「遥かなる河」  /  2015年7月21日発行  /  蒼穹舎