■ 読書感想84  石毛優花「melt bitter」

目的地の途中道に花が咲いていて、そのことと戯れる。
遊び心が束の間膨らみ、一つ一つの花と触れ合いを喜ぶ。
いつしか道の目的が変わり、石毛さん自身が花になる。
写真を撮る時、目になってシャッターを切るけれど、写真になった光景は全て、花が開くように嬉しさが開いている。

最初どこに行きたかったのだろう?
多分石毛さんは写真への旅に出た。
だから目的地は写真だった。
写真への旅に出てその道すがら、石毛さん自身がシーンへと同化し、気が付いたら石毛さんは既に写真にいたのだ。

憂いの中の明るさも、明るさを支える憂いも、全て自らのはたらきで写真へと注ぎ、写真は目に見える形で素朴に発光する。

喜びは気が付いたらそこに在り、氷は光の音を立てて優しく溶ける。
存在はわななき、少女は息を止める。
そんな石毛さんは息を詰めて、少女の目を見る。
状況は写真となり、写真は石毛さんの息遣いのまま、凝固する。
写真は束縛を離れ自律し、跳ねる少年はもう石毛さんではない。

写真は写真なのだ。

 

石毛優花「melt bitter」  /  2022年3月21日発行  /  石毛優花(私家版)